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古代中国箚記

古代中国の文章・文物・歴史・研究について。とりあえず漢文(古典漢語)や漢字について徒然なるままに、また学会覚書、購書記録なども記していきます。

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『角川新字源 改訂新版』は、こういう人が買うべきだ

あえて言いましょう。

『角川新字源 改訂新版』   
「買うべき」です。

ただし、中国や漢文を少しやったことのある方に、あるいは、校正者や校閲者を目指す方に限ってのことです。これほどいい教材はありません。固有名詞の間違い、変換間違い、地図の間違い、日本語として意味が分からない点などがちりばめられている、すばらしい教材です。

なにか漢和辞典を1冊、、、という方は、少なくとも初版は買ってはいけません。

辞書なんだし、角川新字源なんだから、そんな間違いとかないでしょ、と思う方や、営業妨害でもしたいのかなこの人、と思う人もいるかもしれませんが、数頁を検討した結果(詳細はすでにTwitterで発表すみ)、今回改訂の編者の筆頭である阿辻先生とは知り合いだけれども、悲しいかな上のように言わざるを得ません。

唯一、僕が感心したのは、おそらく中型漢和/国語辞典ではじめて大胆なデザインの函をつけた(特装版・左の方)ことです。
この発想はいままでの編集者にはなかったと思います。

まず熟語の語釈が旧版とほとんど変わりません。言葉の意味なんてそうそう変わらないからいいでしょと思う人はこの50年ほどの中国語研究・古典漢語研究・出土史料研究の成果を知らない人です。今の類書(中型漢和辞典)で、『漢語大詞典』を参照してないのは、僕が知る限りではこの『角川新字源 改訂新版』だけです。つまり、まだまだ時代遅れなのです。

他社はとっくに二色刷にしてるし、添え仮名つけたり全訳にしてるし、語釈にも手を入れてるのに、新字源は今回でようやく「親字」に手を入れ、二色刷にし、添え仮名をつけた(逆に言うと内容のほとんどは旧版約25年前と同じ)レベルに達したので、四半世紀ほど遅れているような気がします。

"30代の編集者が10年の歳月をかけて改訂した"
という宣伝文句があります。私も編集者のはしくれですし、漢和辞典の項目執筆や校正・校閲もしてきました。その経験と今回の改訂新版を見ると、「この編集者はこの先も辞書を編集するだろうか(今回の大失敗がこたえているに違いない)」「せめてあと1か月、いや半月だけでも販売を遅らせて、しっかり校正・校閲をするべきだ、と意見する人が社内にいなかったのだな。かわいそうにと思ってしまいます。

社内において、実は販売期日というのは、かなり絶対なものです。

漢和辞典というのは、高校入学時とセットで買ってもらうもの(少なくとも商品としては出版社はそう考えている)なので、クリスマスまでには、店頭に並んでいなければ話になりません。各高校の国語科教師にお願いして高校でお薦めないし購入必須の漢和辞典として指名されるためには、営業さんが現物を持って1校1校回らなければいけないので、営業サイドは1日でも早く出してくれというのが、「漢和辞典の社内事情」です。

そして、大手出版社の辞典ですから、刷る部数もそれなりにすごいわけです。

校了にした後、印刷会社で印刷し、製本会社で製本し、函製作会社は函をつくり、スリップや帯をつけ…と、あとあとの作業が待っていますので、ちょっとやそっとでは動かせません。そのためにそもそも「紙」をおさえないといけないし、全国に運送するてはずも整えなければいけません。

でも、編集者というのは本来的に独立した業種・業務であって、クライアントやさまざまな関係者の間に立ち、現実的に最大限の努力をして、よりいいものを、辞書に限って言えば、「間違いが載っていない」ものを、世に出す「責任」(あるいは「自負」)があります。

その意味では、30代の編集者という方は、私にはかわいそうでならないのです。

諸事情があるために、本来発売日は延ばせませんが、「半年前に1か月遅れる」という判断ができて、それを上司に直談判していれば、1か月校正・校閲しただけよいものが出せたはずです。何人かの辞典編集者をみて、私はそのような判断をし、上司に直談判するのが「辞典編集者」の大きな仕事のうちのひとつだと思うのです。本当の意味での最後の砦なのです。

20年弱使ってきた中型漢和辞典ですので、思い入れもあります。
それでも、今回の改訂は残念の一言しか思い当たりません。

KADOKAWAさん、阿辻先生、関係者の方々、こんな酷評しかできずにごめんなさい。
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