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古代中国箚記

古代中国の文章・文物・歴史・研究について。とりあえず漢文(古典漢語)や漢字について徒然なるままに、また学会覚書、購書記録なども記していきます。

「初年」考(一)

本当にお久しぶりです。研究らしい研究はしておりませんでしたので、ここに書くべきことがありませんでした。

FacebookやらTwitterやらはやっていたのですが、ようやくここに、つまりFacebookのような友人プラスアルファくらいのコミュニティではなく、Twitterのような文字数に限りがあり、かつインターネット検索にかからないSNSでもない、公開の場で多くの人に後々まで見ていただきたいと思うような内容がでてきました。



「初年」という言葉があります。

漢字二文字で音読みなので、和語と漢語からなる日本語という区分では「漢語」です。
当然、中国の古典籍にも登場する言葉・語彙ですから、中国語(漢語)という意味においても「漢語」です。

この日本語の漢語と中国語という意味の漢語の両者で、同じ漢字・語彙・字面なのに意味が違うということがあります。
日本語のなかの中国語由来のことばを「漢語」というのですが、日本で作られた「和製漢語」もあります。でもまあ、ほとんどの場合は両者は同じ意味なので、ふだんはそれほど両者の違いを意識してはいません。

では、みなさんは、たとえば「明治初年」といった場合、いったい具体的に何年を想像されるでしょうか。

私の日本語感覚では、「初年」という言葉は使用しません。もっぱら読む側です。「明治初年」と書いてあれば「明治元年のことではないかな」というのが、パッと見た、すぐに思いついた考えでした。前後の文脈から、明治元年以降を表していても、違和感を覚えません。つまり、ただたんに「明治初年」という字面からは、頭の中でとっさに"「明治元年」とほぼ同じなのだろう、と変換する"、ということです。

最近読んだ論文に、はじめの方に「雍正初年」という字面(じづら)が2回出てきて、終わりの方に「雍正元年」と出てくるものがありました。はじめの方は「雍正初年≒雍正元年」と脳内変換して読んだので、あとの方で「雍正元年」と出てきたときに、「あれ?雍正初年は雍正元年じゃなかったのかな」とちょっと不思議に思いました。ただの表現上の不統一なのかなと感じましたが、念のため、辞書をひくことにしました。

こんなときにひくのは、まず日本語として「初年」がどういう意味なのかを知りたいのですから、当然『国語辞典』です。
最近、『広辞苑』が改訂されるという話題をあちこちで耳にしますが、僕は『広辞苑』を買ったこともなければ使ったこともなく、日本語の辞典といえば、
小学館『日本国語大辞典』(第二版)全13巻
を生みだした、小学館のものをひきます。この第二版が死ぬほど欲しいのですが、たとえ買っても置く場所に困るので、我慢してます。お薦めなのは、その内容をぎゅっと凝縮し、1冊本にした、『国語大辞典』小学館、1988年です。ちょっと古いのですが、新語を調べるわけでもなく、なにより安価で入手できますから、お薦めです。

そこには、このように解説してありました。

しょ-ねん【初年】①ある物事をやりはじめた年。第一年。②ある期間のはじめのころ。「明治初年」
―― -ど【初年度】ある仕事や事務が始まる最初の年度。第一年度。
―― -へい【初年兵】旧陸軍の兵士で、入隊してから一年以内の者。

さて、困りましたね(笑)。

「明治初年」と用例が出てあるところでは「はじめのころ」の意味だとしながら、「初年度」「初年兵」では明確に「一年(間)」です。「はじめのころ」=「一年(間)」であれば、この説明は矛盾なく理解することができます。しかし「初年」の項に、①第一年と②はじめのころの両方の意が明記されているので、それは否定されます。「はじめのころ」はあくまでも「はじめのころ」なのでしょう。

とすると、「明治初年度」という言葉は、「明治のはじめのころのうちの、とある一年度」なのでしょうか、それとも「明治元年度」と同じと言えるのでしょうか。あるいは、そんな矛盾するような言葉は存在しないのでしょうか。

このような「辞書をひいても分からないこと」を解決する方法がひとつあります。

少し長くなりましたので、続きは、次回に話しましょう。



ちなみに、僕は本当はもう紙の辞書をひくことはほとんどありません。とくに『国語辞典』はいっさいひかずに、ネットで調べています。ネットは信頼性が、、、と思うかもしれませんが、コトバンクなら、紙の辞典を電子化してネットで公開しているので、安心です。
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