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古代中国箚記

古代中国の文章・文物・歴史・研究について。とりあえず漢文(古典漢語)や漢字について徒然なるままに、また学会覚書、購書記録なども記していきます。

古典漢語(漢文)の音韻入門書

古典漢語(漢文)を読むにあたって、音韻はやっぱり避けて通れないところ。大学院の指導教官は、読みにくいところにさしかかると、中国語で読んで調子のよい方で句読を打ってました。
自分は歴史学徒なので、古典漢語の音韻とは縁遠いのですが、修士一年の時に読んだ、宇都宮清吉先生の『漢代社会経済史研究』1955年に収録されていた、王褒の「僮約」という奴隷との契約文書が韻文の形で残っているのを、脚韻を手がかりにして鮮やかにテキストを校勘されていたのを読み、音韻の重要性を初めて知りました。論文そのものも、重要な問題を数多く指摘しており、古代四川の状況を考える上で示唆に富む素晴らしい論文だと思います。

でも、素人にはなかなか理解しづらく、難しいのが中国語の音韻学。

なかなかいい入門書もないのですが、最近、面白いものを読みました。Q&A形式になって、やっぱり音韻の内容は難しいのですが、それでも入門書としてはなかなか分かりやすく読みやすくなっています。

唐代の人は漢詩をどう詠んだか―中国音韻学への誘い大島正二
『唐代の人は漢詩をどう詠んだか―中国音韻学への誘い
岩波書店、2009年6月。
第1話 漢詩と韻—中国音韻学への第一歩
 (はじめに・漢詩と韻のはなし・古代中国語の音韻)
第2話 古代中国の音韻学—韻書と韻図をめぐって
 (中国の言語研究・“反切”のはなし—中国で生まれた表音法・「四声」のはなし—高低アクセント・韻書のはなし—韻引き字典・韻図—現代的な音節表)
第3話 古代音の実相に迫る—清朝の古代音研究
 (古代音の復元にむかって・古音研究の夜明け・古音研究の開花・中古音の探究)
第4話 古代音を復元する—杜牧「江南春」を唐代音で読む
 (近代的な古代音研究への旅立ち・“中古音”復元の方法)


この本は、在庫がなくなる前に即買いですね。

中文の人が現代中国語で古典漢語を読むのに若干の違和感を感じている自分としても、「この題名はすごい」と思いました。第1話まで一気に読んでしまいました。

第1話でおおっと思ったのが、

「ある漢字が平か仄かを言いあてるのには二つの条件、つまり
 その一、現代中国語音を知っていること
 その二、日本漢字音を知っていること
 この二つが揃えば鬼に金棒です。平仄を言いあてることができます」

という下り。

日本漢字音で「フ・ツ・チ・ク・キ」で終わっているものは、中国の古代の入声(現代北京音では失われている)なので、「仄」となるのは知っていたのですが、現代中国語音を知っていれば、平仄を正しく言いあてることができるなんて初めて知りました。
それまでは、わざわざ漢和辞典をひいて確かめていたのに^^;

第4話の杜牧「江南春」を唐代音で読むが、どんな感じになるのか今から楽しみです。




さて、いままで古典漢語の音韻といえば、やや専門的になるけれども、詩経から宋元明清の音韻学が詳しく紹介され、理解を助けてくれる訳注がある以下の書に定評がありました。自分もこれを通読して「中国古代漢字音の復元がいかに難しいか」を痛感したことがあります。カールグレンはすごい!と思うと同時に、「意外と復元音もはずれている可能性もあるんだな」と^^; 非常に深みのある学問領域です。

音韻のはなし―中国音韻学の基本知識 (基本中国語学双書)李思敬、慶谷寿信・佐藤進(訳)
『音韻のはなし―中国音韻学の基本知識
光学館(基本中国語学双書)、1987年。




もう少し肩肘はらずに読める概説的なものでは、

中国古典を読むために―中国語学史講義頼惟勤
『中国古典を読むために―中国語学史講義』
大修館、1996年。

が、『説文解字』に始まる小学書の解説を軸に音韻、韻図の解説を豊富にしているので、非常に音韻の勉強になります。はじめて音韻を知ってみたい、かじってみたいという人にはこの本は超お薦めです。書名に「音韻」の「お」の字も出ていませんが、これ1冊で中国音韻史の概要と専門用語を平易に理解することができます。

あとは、
中国文化叢書 1牛島徳次など編
『中国文化叢書 1 言語』
大修館、1967年。



所収の論文が読みやすく、かつコンパクトに過不足なく説明されていて、40年前のものですが、非常に役に立ちます。音韻学的に見れば、修正すべき点もあるんだろうけど、これも通読して、ふむふむなるほどと納得して読んだのを覚えています(知識は忘れてしまうので、ことあるたびに読み返しています//笑)。

音韻論はⅡ部に配されていて、
 1.藤堂明保「上古漢語の音韻」
 2.水谷真成「上中古の間における音韻史上の諸問題」
 3.平山久雄「中古漢語の音韻」
 4.菊田正信「現代語の音韻」
の4編があります。なかでも平山論文は、内容がしっかりしていて読みやすいです。

もっとも、この本で自分が一番感動したというか、目から鱗的なことがたくさん載っていて本当に勉強になったのが、Ⅲ部の文法論の志村論文でした。
 1.望月八十吉「漢語文法論の諸問題」
 2.牛島徳次「文法研究の略史」
 3.牛島徳次「古典語の語法」
 4.戸川芳郎「古典語の語彙」

 5.志村良治「中古漢語の語法と語彙」
 6.香坂順一「近世・近代漢語の語法と語彙」
 7.香坂順一「現代語の語法」
 8.大河内康憲「現代語の語彙」

この本は本当に古い本ですが、スタンダードな古典的な拠るべき本のような気がします。
漢文に興味ある人にはぜひとも読んで欲しい本です。

しかし、絶版をいいことに、『音韻のはなし』と『中国文化叢書1言語』はamazonの中古本(マーケットプレイス)では4000円越えしてますね。1000~2500円くらいが妥当な値段のような気がするんですが。。。

いずれの本も、おそらく東京都内であれば区立図書館においてあるところが多いと思います。一度、
手にしてみれば、その良さが分かると思います。
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テーマ:中国語 - ジャンル:学問・文化・芸術

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