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古代中国箚記

古代中国の文章・文物・歴史・研究について。とりあえず漢文(古典漢語)や漢字について徒然なるままに、また学会覚書、購書記録なども記していきます。

春眠、曉を覚えず(中国古代人は何時に起きていたか?)

春はとかく眠い時期で、冬の疲れがたまっていて、自然とたくさん寝てしまうものだ。

ここ1,2日は、仕事が一段落ついたこともあり、オフ日なので、蔵書の整理とか部屋の片づけ、整理をしたかったのだが、10時間とか12時間とか寝てしまった(笑)。

春眠、曉を覚えず

とは、春はとかく眠いことの代名詞のように使われる唐詩の一文句。孟浩然の詩「春曉」の一節だ。

有名な漢詩、唐詩であるし、たしか高校の漢文の教科書にも載っていたような気がする。今、岩波文庫の『中国名詩選』(中)に従って、原文・書き下し・訳を載せてみよう。

中国名詩選〈中〉 中国名詩選〈中〉
松枝 茂夫 (1984/09)
岩波書店

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春曉    孟浩然

  春の朝ののびやかな気分。

  春眠不覺曉  春眠 暁を覚えず
  處處聞啼鳥  処処 啼鳥を聞く
  夜來風雨聲  夜来 風雨の声、
  花落知多少  花落つること知らず多少ぞ。

春の眠りの心地よさに夜の明けるのにも気がつかず、うつらうつらしていると、あちこちに鳥の鳴き声が聞こえる。はて、昨夜風雨の音がしていたが、花はどれほど散ったのかしら。
上記の書き下しについて通りすがりさんよりコメントをいただきました。このブログ記事の下部に補足説明(<追記 2007.04.05>)を書き加えましたので、そちらもご参照ください。

実は、
自分の中の「春眠、暁を覚えず」は、春になるとたくさん寝る、朝方は思わず寝坊してしまう、とかそういう意味だと漠然と思っていたんだけれど、「暁」って夜明けだよな、「覚えず」って「気がつかない」だよな、と改めて思い、ちょっと考えた。

そうすると、「春眠、暁を覚えず」は、春眠以外は暁(夜明け)が分かるほど早く起きる、ということになる。孟浩然の詩の次句も、上の訳文からも分かるように「処処 啼鳥を聞く」だ。朝方に日が明けて間もない頃は、鳥があちこちで鳴いている。つまり、いつもは夜明けが分かる頃には起きているが、春は、夜が明け後の鳥の声がする頃に起きる、となります。


相当、早起きです・・・(w


朝、寝坊するくらい思わず寝てしまう、とかのイメージとは違いますね。そこで、日本語としての意味(一般に知られているこの文句の意味)はどうなんだろうと、下の辞書を見てみました。

国語大辞典 (1981年) 国語大辞典 (1981年)
尚学図書 (1981/12)
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春の夜は短い上に、季候がよく寝心地がよいので、夜の明けたのも知らずに眠りこんで、なかなか目がさめない。

「夜の明けたのも知らずに眠りこんで、なかなか目がさめない。」とありますね。「なかなか目がさめない」、ではいつごろ目がさめるのかはこの説明からは分からないですが。。。

では他の辞典ではどうでしょう。故事成語辞典で収録語数が多く、説明もまたよいと思っている、私がよく使う『成語林』と『故事・俗信ことわざ大辞典』を見てみましょう。

成語林―故事ことわざ慣用句 成語林―故事ことわざ慣用句
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春の夜は短いうえに、こころよくて、ついぐっすり寝過ごしてしまい、夜明けも気づかない。春の朝の容易に起きがたいさまをいう。

「春の朝の容易に起きがたいさまをいう。」とあります。自分もこういうことを表す言葉だと思っていました。人によっても違いますが「朝」というのは7時くらいかなと。。。


故事・俗信ことわざ大辞典 故事・俗信ことわざ大辞典
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春は夜が短い上に眠るのに快適な気候なので、夜明けも知らず眠り込んで朝になってもなかなか目がさめない。

こちらも「朝になってもなかなか目がさめない。」ですね。

さて、皆さんは何時頃起きるでしょうか。
仕事の関係にもよりますが、6時とか7時くらいが一般的でしょうかね。おそらく、その頃は、「夜明け後にあちこちで聞こえる鳥の鳴き声」は聞けないのでは・・・、と思ってしまいます。


それにしても、古代の中国の人は早起きですね。



<追記 2007.04.05>

「朝廷」とかの語からも、そういえば早起き度合いが分かりますね。

さて、通りすがりさんより、

ところで松枝茂夫の訓訳
>花落知多少  花落つること知らず多少ぞ。
はなんで、「知らず」なんでしょうね。普通は「知りぬ(知んぬ)」と読むことが多いと思うんですが。意味的には原文は「知多少」であっても「不知多少」であっても意味の違いはないんですが。


とコメント欄にてご指摘をいただきました。ご指摘ありがとうございます。この句も自分は「知んぬ」で覚えていたので、岩波文庫の書き下しを見たときに少し違和感を覚えました。

実は、松枝茂夫(編)『中国名詩選』(中)(岩波文庫、1984年)には、原文・書き下しのあとに注のような補足説明があります。「春曉」のその部分に、これに関して説明があったので下記に挙げて、通りすがりさんのコメントのお返事とするとともに、この記事の読者のみなさんにも補足説明させていただきます。

松枝茂夫(編)『中国名詩選』(中)(岩波文庫、1984年)251頁より(ルビ・符号は省略させていただきました)。

<夜来>昨夜。<知多少>「不知多少」の不を略した形。いったいどれくらいか知ら? 字数の限られている定型詩では、あとに疑問詞がくる場合、不の字を省略することがある。たとえば、「知是誰」(知らず是れ誰ぞ)「知何地」(知らず何れの地ぞ)の如し。



以下は、少し思い出話。
このブログで引用した岩波文庫の『中国名詩選』(全3冊)は、たしか大学入学後に漢詩に興味を持ち始めた頃に、神田の東方書店で買い揃えたもの(東方書店のカバーがかかっているのですぐ分かる)。当時はまだ岩波文庫はカバーがパラフィンのものが多かったような。私が買ったものもなぜか中巻だけパラフィン紙でした(笑)。
この3冊はなかなかすぐれものだと思います。中国歴代の有名な詩を六百首ほど載せて、原文に書き下し、さらに平易な訳に簡単ながら注もついています。ちなみに上巻は「詩経~三国魏」の詩を、中巻は「晋代~盛唐」の詩を、下巻は「中唐~清代」の詩をおさめています。有名な漢詩はかなりカバーしているので便利です。
中国名詩選〈上〉 / 松枝 茂夫
中国名詩選〈中〉 / 松枝 茂夫
中国名詩選〈下〉 / 松枝 茂夫
地域の図書館にも所蔵されているかと思いますが、手元にあると意外と重宝するかもしれません。自分はもっぱら上巻を読んでましたが^^
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テーマ:漢詩・漢文 - ジャンル:学問・文化・芸術

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