古代中国箚記

古代中国の文章・文物・歴史・研究について。とりあえず漢文(古典漢語)や漢字について徒然なるままに、また学会覚書、購書記録なども記していきます。

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文庫本や雑誌の字ポをあげませんか?(あげてください!)

このサイトでは、『漢辞海』がいかに優れているか、繰りかえし言っているので、もう言わない。

中型漢和辞典の第一選択肢(第二や第三はない//笑)である、『全訳漢辞海 第四版』

ですが、2016年に、第四版が出ていたんですね。

でも、もう僕の目にはきついです。。。

小学生のころ、図書館で「大きな活字の広辞苑」とか、「大きな活字の」シリーズの辞書が置いてあるところがあって、
なんでわざわざ大きいものがあるのだろう?
と、不思議に思っていましたが、今や、
なんで活字は小さいのだろう?
と思うことしきりです(笑)。

ということで、実は今年は漢和辞典をかなり使う予定なので、大きい下記のものを注文しました。

『全訳漢辞海 第四版 机上版』


名前が「大きな活字の~」とか無粋じゃなくて、「机上版」とスマートなのがまたオシャレ(笑)。

辞書は活字が小さいのは分かるとしても、文庫や雑誌で使われている字の大きさが、実に微妙な大きさで、老眼にはこたえます。校正しているときも、昼をすぎるとゲラの文字がかすれてしまうので、そっこうでメガネをはずすのでした。

来たる高齢化社会に向けて、文庫本や雑誌などの基本的なフォントの字ポ、あげませんか。
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『中国歴史地図集』全巻ウェブで見られます!

タイトル通りでございます(笑)。

かの譚其驤編『中国歴史地図集』(全8巻、中国地図出版社)が、タダで見られます。

僕が中国に初めて行った時に、上海の福州路のでかい書店で、兌換幣で、かつ、外国人向けコーナー(つまり中国人は立ち入り禁止)で買ったのが、『中国歴史地図集』の第3分冊でした。中国古代史を専攻したこともあり、また中国書が日本ではそれほど安くなかった(今でもそう思うが)時代だったので、以後、宋代以降のは買わずじまいでした。

そんなことを思うと、本当に隔世の感があります。

・中国歴史地図集
http://www.ccamc.co/chinese_historical_map/index.php

このサイト、かなり高画質なので拡大しても文字もはっきり見えます。

ただし、「地名検索」はできず、その地名も「簡体字」です。書籍ではずいぶん前に「繁体字版」は出ましたし、今では地名検索できるソフトもあります。でも、地図はやはり広げてみて、場所の感覚や距離を目でみて確認するというのはとても大事なことです。

いずれにせよ、有用なサイトです。著作権云々は、ここでは言わないでおきましょう。

浦島太郎とはこのことか・・・(古代中国語の音韻と『詩経』の翻訳)

4年ほどブログを放置し、研究会にも5年ほど前に出たっきり、すっかり「研究の場」から遠ざかってしまいました。

理由はひとつではありませんが、「お金」の問題があることは否定できません。要するに、特に文系は学問だけしていても、お金にはならない(=生活できない)ので、現実世界でなんとか収入を得なければと校正や編集の仕事を増やしたからでした。

「研究の場」にいないと、いろんな情報から遠ざかってしまうものです。今日、こんな本が出ていることを知りました。

カールグレンと数人の中国人研究者を除き、研究されてないものだと思ってましたが、当然のことながら知らないところで研究は進んでいました。

 ウィリアム・H. バクスター『古代中国語音韻学ハンドブック』きこ書房、2014年

 ハンドブックといいながら、この本は1113ページもある、大著です。7334円也。

 handbookは、OEDOxford English Dictionary)に、
 

A small book or treatise, such as may conveniently be held in the hand; a manual.

 とあるように、本来の意味は「手でつかめむにちょうどよいくらいの書籍/専門書のこと」なので、ちょっと違和感があります。
 とはいえ、原著者の「ほんのハンドブックにすぎないけれど、これほどの厚さになってしまったよ」感が伝わってきます。ページ数からしても、扱う内容が専門的なことからしても、良心的な値段なのでしょう。
けれど、やはり高いと思ってしまう。
原書を買った方が安いはずと思って、見てみたら、なんと$547.88 (約6万2491円)。。。

絶対手が出ないわ。
まして、専門じゃないしw

でも、大学図書館などには入れて欲しい一冊です。と、思って出講先の大学図書館のOPACで調べたら、ありました。ありがたい。来週にでも借りにいこう。

また、こんな時に、amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」的な、いつもならうぜーよと思う機能がありがたいです。芋づる的に、ここで紹介していない本をいくつか紹介しておきましょう。

松丸道雄『甲骨文の話』大修館、2017年。
いわずとしれた、甲骨文字・殷代史の大家、松丸先生の本です。ちょっと内容紹介をみてみると、

松丸道雄先生の六十余年にわたる甲骨学研究のエッセンスが読みやすい形で新たな一冊に! 若き日の論文「甲骨文略説」、壮大な歴史研究「殷人の観念世界」、「十二支の「巳」をめぐる奇妙な問題」、書き下ろし「『甲骨文合集』の刊行とその後の研究」など11本の論考・講演録を収録。甲骨文字発見から百二十年のいま改めて、漢字の源流、甲骨文字の世界を味わえる一冊。(amazonより)

とあるので、いろいろな話・文章が収録されているとのこと。これはこれで面白そうです。

ついでに『詩経』はさまざまな訳が出ていますが、間違っても目加田誠訳なんていうものは買ってはいけません。『詩経』にかぎっていえば、基本的に中国文学者の訳は、歴史的な背景をほとんど顧みない翻訳です。
『詩経』に10首余り出てくる、恋愛などの男女関係を中心に講義で話すことがあり、『詩経』の翻訳を比較検討したことがあります。

基本としたのは、以下にリンクを貼った白川静訳でした。もちろん、白川訳がベストというわけでもありません。その際に参考にしたのは、牧角悦子『詩経・楚辞』(角川ソフィア文庫)、角川書店、2014年でした。この本で翻訳された『詩経』のうたは、なかなか鋭い指摘や深い理解と的確な訳語を用いており、非常に興味深く、また検討に値する翻訳でした。


何か1冊を、と言われた時、私は牧角訳の『詩経』を薦めています。

「初年」考(二)

紙の辞書で解決しない場合はどうすればいいか。

答えは、シンプルです。ググる(Google検索をする)のです。

ただし、校正/校閲のためのググり方というのがあります。たいしたことではありませんが、知っているか知っていないかで大きな違いといえるでしょう。

たとえば、「明治初年度」ということばをググります。普通にググると以下のような画面になります。
mingzhichuniandu.jpg

画像を見ればわかるように「明治」と「初年度」あるいは、「明治」「年度」「初」が同じページにあるところが検索結果として出てしまいます(約114万件ヒット)。

知りたい/調べたい言葉をダブルクオーテーションで囲むと"その文字面(もじづら)"があるページを結果に出してくれます。
mingzhichuniandu_quote.jpg

約6730件の「明治初年度」という文字が、インターネット上にある、ということがわかります。


このダブルクオーテーション検索は、インターネットでの用語使用例がわかる、とんでもない便利なものです。たとえば、校正・校閲では「指摘」や「疑問だし」といった、100パーセント間違いではない/正しいか知らないのだけれど、このほうがいい、こうではないかという校正者の意見を編集者や執筆者に伝えることがあります。

その根拠に『広辞苑』や用字用語集をあげても、あまり意味がありません。なぜなら、執筆者は自分の書いたものが正しいと思って原稿をゲラにしているのですから、ほかの候補を提示されても、積極的に採用する理由がないからです。

「Google検索ではABCは~~件、abcは~~件」と出すと、執筆者は多いほうを選ぶことが多いです。

なぜか。

ご存知の通り、言葉は移ろい変わるものです。辞書や文法が正しいものだとしても、たとえば誤用が主流になっていたら、執筆者の意図をより正確に読者に伝えるのは、「正しい用法」ではなく「誤用」のほうなのです。

閑話休題。
「明治初年度」の上から3つは、URLがgo.jpドメインなので、日本政府・官公庁関係です。一番上のExcelファイルをみてみると、「明治初年度以降」とは、「明治8年度までの会計年度」を指しています。

このファイルでは、もう一つ興味深いことがわかります。現在の日本では4月から年度が始まるのは常識で、それを疑うことはまずありません。この統計表から「4月が(会計)年度始まりとなったのは明治19年」だということも分かります。

また、画像より下にある「明治翻訳語のおもしろさ - 国際言語文化研究科」というpdfでは「表2:明治初年度の翻訳点数」として1868年(明治元年)から1882年(明治15年)までの翻訳された書籍の点数を数えています。

明治初年度=明治年間のはじめの何年か


こんな風にして、より信頼度の高いサイトを主として「明治初年度」が何を意味しているのか、帰納的に導きだすと、明らかに、「明治年間のはじめのころの数年度」であって、「明治元年度」とは異なることが分かります。

実は私は校正・校閲で辞書をほとんどひきません。自分の日本語に絶対的な自信があるわけでもありません。

ネットで検索をすれば、辞書に載ってないことを知ることができるからです(送り仮名の本則などは用字用語辞典をひきます)



「雍正初年」と「雍正元年」が混在している論文は、「雍正初年」の箇所に「雍正元年と勘違いされる可能性があるので、雍正年間初期とする?」と鉛筆で指摘しておきました。

『角川新字源 改訂新版』は、こういう人が買うべきだ

あえて言いましょう。

『角川新字源 改訂新版』   
「買うべき」です。

ただし、中国や漢文を少しやったことのある方に、あるいは、校正者や校閲者を目指す方に限ってのことです。これほどいい教材はありません。固有名詞の間違い、変換間違い、地図の間違い、日本語として意味が分からない点などがちりばめられている、すばらしい教材です。

なにか漢和辞典を1冊、、、という方は、少なくとも初版は買ってはいけません。

辞書なんだし、角川新字源なんだから、そんな間違いとかないでしょ、と思う方や、営業妨害でもしたいのかなこの人、と思う人もいるかもしれませんが、数頁を検討した結果(詳細はすでにTwitterで発表すみ)、今回改訂の編者の筆頭である阿辻先生とは知り合いだけれども、悲しいかな上のように言わざるを得ません。

唯一、僕が感心したのは、おそらく中型漢和/国語辞典ではじめて大胆なデザインの函をつけた(特装版・左の方)ことです。
この発想はいままでの編集者にはなかったと思います。

まず熟語の語釈が旧版とほとんど変わりません。言葉の意味なんてそうそう変わらないからいいでしょと思う人はこの50年ほどの中国語研究・古典漢語研究・出土史料研究の成果を知らない人です。今の類書(中型漢和辞典)で、『漢語大詞典』を参照してないのは、僕が知る限りではこの『角川新字源 改訂新版』だけです。つまり、まだまだ時代遅れなのです。

他社はとっくに二色刷にしてるし、添え仮名つけたり全訳にしてるし、語釈にも手を入れてるのに、新字源は今回でようやく「親字」に手を入れ、二色刷にし、添え仮名をつけた(逆に言うと内容のほとんどは旧版約25年前と同じ)レベルに達したので、四半世紀ほど遅れているような気がします。

"30代の編集者が10年の歳月をかけて改訂した"
という宣伝文句があります。私も編集者のはしくれですし、漢和辞典の項目執筆や校正・校閲もしてきました。その経験と今回の改訂新版を見ると、「この編集者はこの先も辞書を編集するだろうか(今回の大失敗がこたえているに違いない)」「せめてあと1か月、いや半月だけでも販売を遅らせて、しっかり校正・校閲をするべきだ、と意見する人が社内にいなかったのだな。かわいそうにと思ってしまいます。

社内において、実は販売期日というのは、かなり絶対なものです。

漢和辞典というのは、高校入学時とセットで買ってもらうもの(少なくとも商品としては出版社はそう考えている)なので、クリスマスまでには、店頭に並んでいなければ話になりません。各高校の国語科教師にお願いして高校でお薦めないし購入必須の漢和辞典として指名されるためには、営業さんが現物を持って1校1校回らなければいけないので、営業サイドは1日でも早く出してくれというのが、「漢和辞典の社内事情」です。

そして、大手出版社の辞典ですから、刷る部数もそれなりにすごいわけです。

校了にした後、印刷会社で印刷し、製本会社で製本し、函製作会社は函をつくり、スリップや帯をつけ…と、あとあとの作業が待っていますので、ちょっとやそっとでは動かせません。そのためにそもそも「紙」をおさえないといけないし、全国に運送するてはずも整えなければいけません。

でも、編集者というのは本来的に独立した業種・業務であって、クライアントやさまざまな関係者の間に立ち、現実的に最大限の努力をして、よりいいものを、辞書に限って言えば、「間違いが載っていない」ものを、世に出す「責任」(あるいは「自負」)があります。

その意味では、30代の編集者という方は、私にはかわいそうでならないのです。

諸事情があるために、本来発売日は延ばせませんが、「半年前に1か月遅れる」という判断ができて、それを上司に直談判していれば、1か月校正・校閲しただけよいものが出せたはずです。何人かの辞典編集者をみて、私はそのような判断をし、上司に直談判するのが「辞典編集者」の大きな仕事のうちのひとつだと思うのです。本当の意味での最後の砦なのです。

20年弱使ってきた中型漢和辞典ですので、思い入れもあります。
それでも、今回の改訂は残念の一言しか思い当たりません。

KADOKAWAさん、阿辻先生、関係者の方々、こんな酷評しかできずにごめんなさい。

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